深く暗い海底に沈み

精神的に落ち込んだときの記録

景色をともに 6


 次の日もその次の日も、女性がビール瓶を持ってやって来た。せみの輪唱を聴きながら眠ることはなかった。短いとわかった生命の歌声は、それだけで荘厳な舞台を作った。その舞台の空気を揺らすことなく、女性はしずかに腰をおろした。視線を交わすだけで声はなかった。この場が好きな彼、似た感覚を持っているだろう女性、そして、ぼく。ただここにベンチがあるから。そういう解釈はぼくの気持ちを整理するのに十分だった。ビール瓶は、先にぼくがいたからそのお詫びのようなお礼のようなものだろうと考えた。