深く暗い海底に沈み

精神的に落ち込んだときの記録

すみか 4


 街には大きな川が流れていた。街を分断するように街の中心を流れていた。川には鉄橋が架けられており、通勤、通学、散歩、ジョギング、あらゆる人々がその橋を渡った。橋の中程から川を眺めれば、その先には昇る太陽を見ることができた。人々はけれど太陽を見ることはなかった。張り詰めた糸に引っ張られるように、各々の目的地を目指しているように見えた。

 私は欄干に肘をつき、見えるはずもない太陽の輪郭を切り取るように、目を閉じて太陽を見つめた。橙色は視界の中心に集まるようにして楕円の光体を形作った。それはほどなくして円になり、円になれば途端に弾け、また橙色が広がった。

 目を開くと、隣には欄干に腰掛ける女性がいた。足は川の方へ投げ出されていたけれど、長い髪が風に揺られていても細い幹は真っ直ぐで、滑り落ちる心配をするのは馬鹿馬鹿しいことだと思った。女性は足を組み直して私を見た。それから頬を少し持ち上げて、またね、と口を動かした。私もそう口を動かそうとしたけれど、見つめ合ったまま、女性は身体を川へと落とした。女性を追うように下を覗くと、光の膜が均一に張られているだけだった。