深く暗い海底に沈み

精神的に落ち込んだときの記録

すみか 6


 二階の窓から見える橋の上で、綿菓子を乗せたような髪をしたおじさんを、学校帰りなのかリュックを背負ったたくさんの子どもたちが取り囲んでいた。おじさんはその髪に手を入れては小さくてカラフルなものを取り出し、子供たちに手渡した。膝立ちをしているせいだろう、ズボンの膝頭は破けているように見えた。

 みんなに手渡せたようで、子供たちはおじさんに手を振り親のもとへ駆けて行った。夕焼けを背におじさんの笑顔は慈愛に満ちているように見えた。おじさんは立ち上がり、髪から取り出したものを一つ、口に入れた。そこへ一人の女性が近づき、手を差し出した。おじさんは髪に両手を入れて、女性の手に乗せた。女性は何かを言って、おじさんは笑った。

 私は螺旋階段を降りて橋の上へと行ったけれど、おじさんが居た場所には女性しかいなかった。女性は私を見るなり何かを投げた。手を開くとそれは紙に包まれた飴玉だった。顔を上げて女性を見ると、またね、と口を動かして、橋下へと姿を消した。下を覗き見てもやはり、光の膜が張られているだけだった。