すみか 3
パブから足が遠のいて数週間が経ち、春休みに入った。家とバイト先を行き来する生活が続いた。
ある日、駅に向かうバイトの帰り道、地下に続くパブの階段の横を通り過ぎると、口の中にほろ苦いものを感じた。私は渇きを感じながら階段を降り、戸を押し開けた。間隔を空けて座る人々の後ろ姿が見えた。以前もカウンター席はあっただろうかと、彼のいない視界の広がりに少しの安堵を覚え、私は中にいる店員さんに、
「ギネスを、お願いします」
と言った。
「ハーフでよろしいですか?」
彼女は言った。
雫のような耳飾りが両耳で揺れた。
「ハーフでよろしいですか?」
澄んだ雫は水面に吸い込まれるのだろうと思った。綺麗な声だった。
「あ、いえ、パイントで」
「はい、かしこまりました。珍しいですね」
彼女は言った。