深く暗い海底に沈み

精神的に落ち込んだときの記録

すみか 1


 目を覚ますと、一条の陽の光が部屋に入り込んでいた。薄暗い部屋の中でそれは自らの役割を凛と果たしているように見えた。私はだから頬をくすぐる髪の毛を耳にかけながら、その光の中を歩いてカーテンを開いた。すぐに目に力が入るのを認めたけれど、近くを飛ぶ鳥よりも遠くで雲の向こう側に姿を消そうとする飛行機に見惚れた。

 お水を飲もうと冷蔵庫に視線を移すと、お布団干しておいてくれると嬉しいな、と空に書いたような華奢な文字が並んだメモがあった。初めて見る彼女の文字は彼女をよく表しているようで、私はその文字を手でなぞった。そして余白の部分に、喜んで、と文字を並べて陽の光に透かしてみると、どちらも等しく光にさらわれた。

 昨夜、彼女は横になるなりベッドに溶け込むようにして眠りに落ちた。その白い掛け布団を持ち上げると、彼女の匂いが鼻孔をくすぐった。赤子のような柔いそれを、陽の香りよりも好きだと思ったけれど、私の鼻には届かない私の匂いが少しでも吸い込まれていると思うと、陽の光で包んであげたいと思った。

 ベランダに出ると飛行機は、また再び雲に隠れようとしていた。いつかの再会を誓い合って飛び立った人も中にはいるのだろうと、陽の光よりもずっと眩しく見えて、一度ゆっくりと瞼を閉じた。